AI(人工知能)は、今や日常生活から産業分野に至るまで広く浸透し、さまざまな分野で活用されています。しかし、「AIは何でもできる」という誤解が広がる一方で、AIの本当の能力や限界を正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。
慶應義塾大学の栗原聡教授は、日本を代表する人工知能研究者として、AI技術の最前線で研究活動を続けています。栗原教授の研究テーマは、自律型AIや群知能、複雑ネットワーク科学といった分野に及び、人間とAIが互いの強みを活かし、共に社会を形成する「人とAIとの共生社会」の実現を目指しています。
栗原教授が著した『AIにはできない――人工知能研究者が正しく伝える限界と可能性』では、現在のAI技術が抱える根本的な限界と、その限界を乗り越えるために人間が担うべき役割について深く掘り下げています。教授は、本書の中で特に「創造性」「倫理的判断」「共感力」などの領域に焦点を当て、AIが不得意な分野を具体的な事例とともに解説しています。
栗原教授が強調するのは、現時点のAIはあくまでも人間が与えた目的やルールの中で能力を発揮するものであり、AI自身に本質的な創造性や道徳的判断能力はないということです。これらは人間固有の能力であり、人間が担うべき重要な役割として残されているクリエイティブな領域です。
実際、栗原教授の研究室では、AIと人間の創造的な協調を目指す実践的なプロジェクトが進められています。その代表的な取り組みが「TEZUKA2023」プロジェクトであり、手塚治虫の代表作『ブラック・ジャック』の新作エピソードを生成AIと人間が共同で制作するという試みです。このプロジェクトを通じて、AIがどのように創造的プロセスを支援し、人間と共に新たな価値を生み出せるのかを探究しています。
さらに栗原教授は、AI技術を社会に実装する際の倫理的な側面にも強く注目しています。例えば、自律型AIが日常的に活用されるようになると、倫理的問題や責任の所在といった新たな課題が生じます。教授は、こうした課題に対して明確なガイドラインや規制を設けることの重要性を説き、倫理的な観点からもAIの限界を認識し、適切にコントロールする必要があると主張しています。
本書を読むことで、読者はAIが実際に得意とする領域と、逆に人間にしかできないことを明確に理解することが出来るでしょう。そして、AIが単に人間を置き換える存在ではなく、人間の能力を補完し、より豊かな社会を作るためのパートナーであることを実感できるでしょう。特に、私たち日本人のモノの捉え方や八百万神の世界観の西洋の方との違いからAIに対する受け入れ方も語られています。
AIと人間が協調する未来社会に向けて、私たちは何を準備し、どのようにAIと付き合っていくべきなのか。本書はその問いに対して深い洞察と具体的なヒントを提供します。日本は米国や中国にAIの開発だけでなく、利用においても大きく遅れているのは事実です。本書は、AI研究者やエンジニアだけでなく、経営者やビジネスをリードする管理職の皆さんにお勧めの一冊です。
さらに近日中には、栗原教授本人への貴重なインタビュー記事も配信予定です。教授の研究やAIの未来について直接聞くことができる絶好の機会となります。AIが持つ真の可能性と限界を知り、人間との新しい共生関係を探るために、ぜひ『AIにはできない』をお読みください。
▼書籍詳細
AIにはできない 人工知能研究者が正しく伝える限界と可能性 (角川新書) | 栗原 聡 |本 | 通販 | Amazon