販促キャンペーン、価格改定、新商品の投入…。
マーケティングや営業の意思決定は、ますます複雑になっています。
EC・店舗・卸・直販などチャネルは増える一方
在庫コスト・欠品リスクのプレッシャーは年々上昇
そこに、天候・イベント・SNSなど予測しづらい要素も重なります。
その一方で、現場にいるのは、
「データはExcelに溜まっているのに、AIで需要予測までできていない」という企業が圧倒的多数です。
理由はシンプルです。
・機械学習の専門人材が足りない
・開発コストと時間が読めない
・PoCで終わり、現場に定着しない
この「AI人材不足」と「ビジネススピード」のギャップを埋めるために登場したのが、Amazon SageMaker Canvas です。
SageMaker Canvas は、AWS が提供する ノーコードの機械学習サービスです。
特徴を一言でいえば、「ビジネスアナリストやマーケターが、コードを書かずに自分で需要予測モデルを作れるツール」です。
主な特徴は次の通りです。
・ノーコードのビジュアルインターフェース
・ブラウザ上でクリック&選択だけで、データ取り込み〜学習〜予測まで完結。
・50以上のデータソースと連携
・S3、Redshift、RDS、Athena、Salesforceなどに加え、ローカルのCSV/Excelも利用可能。
・需要予測向けのタイムシリーズ(時間によって変化するデータの連続記録:毎日の売り上げや気温・天気など)機能
・時系列データを対象に、今後の販売数・売上・在庫などを予測。
AutoMLとQuick buildで高速モデル構築できます。
最適なアルゴリズム選定やハイパーパラメータ調整を自動化し、短時間で予測モデルを構築。
自然言語でのデータ準備
「日付列から月を抽出したい」といったデータ変換を自然言語で指示可能な点も優れています。
SageMaker Canvas で需要予測モデルを作る際、最低限必要なのは「過去の実績データ」です。
例えば、小売・ECの場合
・日付(Date)
・商品ID / カテゴリ
・店舗 / 地域 / チャネル
・売上数量・売上金額
・価格、割引率、クーポン有無
・在庫量
・キャンペーンフラグ(TV CM、SNS施策 etc.)
・外部要因(天候、祝日、イベントなど)
これらを1つの表(CSVやExcel)に整理しておけば、Canvasに取り込み、ターゲット列(例:翌週の販売数量)を選ぶだけで学習が始められます。
ここからは、ビジネスアナリストやマーケター目線で、実際の操作ステップをイメージしてみましょう。
・Canvas の画面で「データセット」を作成
・S3 / Redshift / RDS / Salesforce / ローカルファイルなど、利用したいデータソースを選択
・対象テーブルやファイルを指定し、データを読み込み
・Canvas は 50以上のデータソースに接続でき、CSV、Parquet、JSONなどの形式に対応しています。
・欠損値・重複・外れ値がないかを、「Data Quality & Insights」レポートで自動チェック
・ヒストグラムや散布図などで、売上と価格・キャンペーンの関係を可視化
必要に応じて
・フィルタリング(特定の店舗・カテゴリに絞る)
・新しい特徴量の作成(例:「週番号」「セールス・フラグ」)
さらに、自然言語で「日付から曜日を作る」「売上数量×単価で売上金額列を作る」などの指示をするだけで、Canvasが変換クエリを自動生成してくれます。
・MLモードで「タイムシリーズ予測」を選択
・予測したいターゲット列(例:販売数)を指定
・予測の粒度(日次・週次など)や期間を設定
・Quick build または Standard build を選択
Quick build を使えば、行数が多くないデータセットであれば、20分程度でモデルとその説明が返ってきます。
Canvasは裏側で AutoML を使い、複数アルゴリズム(ディープラーニングやツリーモデルなど)を自動で試し、精度の高いモデルを選んでくれます。
学習が完了すると、Canvasの画面上で以下が確認できます。
・期間ごとの予測値(例:店舗×商品×週別販売数量)
・実績値との誤差(精度指標:MAPE「平均絶対誤差率」、RMSE「二乗平均平方根誤差」など)
・重要な特徴量(価格・キャンペーン・曜日などが予測にどれだけ効いているか)
さらに、価格やキャンペーンフラグの値を変えて再計算することで、シミュレーション的に「もし〜なら」を比較できます。
例1)「価格を5%下げたら、どれぐらい販売数が伸びそうか?」
例2)「SNSキャンペーンを追加した場合の需要増加は?」
小売・消費財製造販売企業においては、これにより 在庫計画の精度向上・欠品防止・廃棄ロス削減 などの効果が報告されています。
SageMaker Canvas の大きな利点は、ビジネスアナリストが自分でモデルを作りつつ、必要に応じてデータサイエンティストと連携できる 点です。
ビジネス側:Canvasでデータセットを用意し、モデルを作って精度やビジネスインパクトを確認
データサイエンティスト側:Canvasから共有されたモデルを SageMaker Studio で受け取り、本格的なチューニングやMLOps設計を実施。
※MLOps:機械学習モデルの開発・運用・監視を自動化し、継続的かつ効率的にビジネスへ活用できるようにする運用プロセス
この役割分担することにより、
・PoCのスピードが上がる
・「要件のすり合わせ」にかかる往復が減る
・モデルを本番運用する際の移行がスムーズになる
といったメリットが期待できます。
SageMaker Canvas は、時間単位の利用料金と、データ処理・トレーニング・推論に応じた料金モデルで提供されています。
また、自動シャットダウン機能により、アイドル状態のアプリを自動停止してコストを最適化したり、AWS IAM を使ったアクセス制御や監査ログにより、データガバナンスを維持しながら利用するといったエンタープライズ利用に必要な要素も備えています。
いきなり全社導入ではなく、「小さく試して、大きく広げる」 のがおすすめです。
例えば:
1ブランド×1チャネル×半年分のデータ だけを使って、販売数量の予測モデルを作る
・予測精度とビジネスインパクト(在庫削減額、欠品減少など)を評価
・成果が見えたら、対象ブランドやチャネルを順次拡大
このスモールスタートであれば、マーケターやアナリストが主導し、データサイエンティストやIT部門と協力しながら、「現場で使える需要予測AI」 を育てていくことが可能です。
・ノーコードで、ビジネス部門が自ら需要予測モデルを構築できる
・過去データをアップロードし、タイムシリーズ機能を使うだけで、数クリックで予測が可能
・シナリオ比較や要因分析により、「勘と経験」から「根拠ある意思決定」へシフトできる
・データサイエンティストとの役割分担により、PoCから本番運用までスムーズに接続
Amazon SageMaker Canvas は、「AI需要予測」を一部の専門家のものから、マーケターやビジネスアナリストの標準ツールへと変えていく存在です。
「まずは、自社の販売データでどこまで精度が出るのか?」
そこから始めてみませんか。
お問い合わせはこちら:https://smartops.jp/contact