機械設計・生産技術で生成AIを活用する方法|図面に残らない設計の経緯と判断基準を引き継ぐ
機械設計・生産技術で生成AIが役立つのは、図面に残らない「なぜ」を、必要なときに引き出す場面である。図面に残るのは形と寸法までで、なぜその形にしたのか、過去にどんな不具合があったのかは、設計変更の記録や不具合報告、そしてベテランの頭の中にある。ベテランが図面で確かめている観点を言葉にし、設計基準書や過去の記録とあわせて生成AIに登録すれば、若手は出図や設計変更の前に、根拠つきで確認点を受け取れる。出図や設計変更の承認は、これまでどおり人が行う。
本記事では、設計と生産技術で生成AIを使う3つの場面、架空の部品を例にした「図面に残らない経緯」の扱い方、設計レビューの5つの観点、始め方と効果の測り方を解説する。
この記事の要点
機械設計・生産技術で生成AIを使う3つの場面
設計業務へのAI活用というと、形状を自動で作る設計支援やシミュレーションを思い浮かべるかもしれない。それらとは別に、文書を扱う生成AIが役立つのは、社内に蓄積された記録を探し、若手の相談に根拠つきで答える場面である。
| 場面 | 若手の相談の例 | AIが示すもの | 登録する資料 |
|---|---|---|---|
| 出図前のセルフレビュー(設計) | この図面、出図の前に見ておくべきところは? | ベテランが設計審査で確かめる観点に照らした、気をつける点 | 設計基準書、設計審査の記録 |
| 設計変更の経緯を調べる(設計) | このリブは、いつ、なぜ追加されたの? | その形になった理由と、もとの記録 | 設計変更の記録、不具合報告と対策書 |
| 装置の立ち上げと条件出し(生産技術) | 新しいラインの立ち上げで、最初に確かめることは? | 前回の手順と、そのとき起きた不具合をもとにした確認点 | 立ち上げの手順書、過去の不具合報告 |
図面に残る情報と、残らない情報
設計の判断に必要な情報のうち、図面に残るのはごく一部である。架空の部品「BRACKET-A12」を例に、ある設計変更の経緯をたどる。
2019年に量産を始めたRev.Aは、角がR0.5だった。2021年のRev.Bでは振動試験の途中で角から割れが見つかり、当時のベテランが原因を角への応力の集中と突き止めた。2022年のRev.Cで、対策として角をR2に広げた。図面に残ったのは「R2」という数字だけで、なぜR2なのかは不具合報告と設計変更通知、そしてベテランの頭の中にある。
いま、軽量化を任された若手が図面を見て「Rを戻してもいいのでは」と考えている。経緯を知るベテランが別の仕事で手が離せないとき、記録をたどれなければ、同じ不具合をくり返すおそれがある。生成AIが役立つのは、この「図面に残らない経緯」を、必要なときに根拠の記録とあわせて示す場面である。
| 図面に残る情報 | 図面に残らない情報(ありか) |
|---|---|
| 形・寸法・公差・材質 | その形・寸法にした理由(設計変更の記録、ベテランの記憶) |
| 変更後の最新の形 | 変更のきっかけになった不具合と原因(不具合報告と対策書) |
| 守るべき数値 | その数値の根拠と例外の条件(設計基準書、設計審査の記録) |
設計レビューで確かめる5つの観点
「ベテランらしく見て」と生成AIに指示するだけでは、回答はあいまいになる。ベテランが図面のどこを確かめているかを、確かめる内容と根拠の資料まで分けて登録する。設計のレビューなら、たとえば次の5つである。
| 観点 | 確かめる内容 | 根拠にする資料 |
|---|---|---|
| 機能・強度 | 使われる条件で、必要な強さと動きが確保できているか | 設計基準書、試験の記録 |
| 過去の不具合 | 似た形や似た条件で起きた不具合を、くり返していないか | 不具合報告と対策書 |
| つくりやすさ | 加工や組立がしやすく、ばらつきが出にくいか | 加工・組立の指針 |
| 規格・社内基準 | 規格や、社内の設計基準に合っているか | 設計基準書 |
| コスト・調達 | 材料や部品が、決められた範囲で手に入るか | 標準部品の一覧 |
観点の数と重視する順番は、ベテランへの聞き取りをもとに会社ごとに決める。安全や品質に関わる最終判断のように、AIが答えない領域も、ここで決めておく。
設計レビューの相談で、AIは何を返すか
先ほどの部品で、若手が「角のRをR2からR1に変えてもいいか」と相談した場合の返し方の例である。
AIはまず、R2がRev.Bで出た割れへの対策として入れた形であることを示す。そのうえで、登録された観点に沿って、過去の不具合(割れの原因は角への応力の集中)、機能・強度(変えるならRev.Bと同じ振動試験の条件で確かめる)、規格・社内基準(肉を薄くするなら設計基準書の肉厚の下限を守る)を、根拠の記録の番号とあわせて返す。変えてよいかを決めるのは設計の責任者で、AIが示すのは判断の材料までである。どの項目をどの順で返すかは、技術部門と相談して決めておく。
生産技術での使い方:装置の立ち上げと条件出し
生産技術では、新しいラインや装置の立ち上げの前に、前回の立ち上げの手順書と、そのとき起きた不具合の報告を登録しておく。担当者が「最初に確かめることは?」と相談すると、過去の手順と不具合をもとに、作業の前に確かめる点が示される。設備の操作や条件の決定は、これまでどおり担当者と責任者が行う。
技術部門での始め方と、効果の測り方
最初から全部の図面や記録を集める必要はない。1つの部品や1つの工程から始める。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1. 対象を1つに絞る | 出図前の設計レビューなど、くり返し発生する業務を選ぶ。使う技術者と、回答を確かめる責任者を決める |
| 2. 資料と閲覧範囲を整える | 設計基準書、設計審査の記録、不具合報告など、使う資料を選ぶ。お客様から預かった図面など扱いに決まりがある資料は、参照してよい範囲を決める |
| 3. ベテランに聞き取る | 図面で確かめる観点、過去の不具合とその理由、例外の条件、AIが答えない領域を整理する。1回60〜90分ほど |
| 4. 試して、直す | 回答の正確さ、根拠の適切さ、観点の漏れをベテランが確かめ、判断軸と資料を見直す |
効果は、設計審査での指摘や差し戻し、設計の経緯を調べるのにかかる時間、ベテランへの問い合わせの件数、回答が示した記録と実際の記録との一致などを、導入の前後で比べる。始める前の1〜2か月分を記録しておくと、効果を説明しやすい。回答の確かめ方は「RAG・AIチャットボットの回答精度が低い原因と改善方法」でも解説している。
設計部門で生成AIを使うときの注意点
| 承認と判断は人が行う
出図や設計変更の承認、安全や品質に関わる判断、設備の条件の決定は、設計の責任者など権限を持つ人が行う。安全や品質に関わる相談は、最初からベテランや責任者に回す決まりにしておく。
| ベテラン本人の発言のように見せない
使う目的、登録する資料、回答での言い回しは、始める前にベテラン本人と技術部門の責任者で合意する。回答がベテラン本人の発言に見えるような表示はしない。
| 間違った経緯を示したら、記録までさかのぼって直す
回答に付いた記録の番号から元の資料をたどり、資料・判断軸・検索の範囲のどこに原因があるかを確かめて直す。直したあとは、同じ部品や同じ種類の相談で確かめ直す。
設計・生産技術向けのchai+ AIエキスパート
設計・生産技術向けのAIエキスパートは、デフィデ株式会社が提供するchai+の活用方法の一つである。ベテラン技術者が図面や工程を確かめるときの判断軸と、設計基準書や過去の不具合報告などの社内資料を登録し、若手が出図や設計変更の前に相談・レビューを受けられるようにする。
- ベテランの観点で見た出図前の確認点、設計の経緯と過去の不具合を示す
- 根拠になった図面・記録の番号と該当箇所をあわせて示す
- 技術の引き継ぎや、装置の立ち上げの準備にも使える
- 登録した資料も相談で入力した内容も、AIの学習には使わず、ほかの用途にも回さない
- 運営するデフィデ株式会社は、ISO/IEC 27001(ISMS)とJIS Q 15001(プライバシーマーク)の認証を受けている
判断基準を生成AIに反映する仕組み(プロンプト・RAG・ファインチューニングの違い)は「社内の判断基準を生成AIに反映するには?」で、AIエキスパート全体はAIエキスパートのページで紹介している。
まとめ:設計のAI活用は「図面に残らない理由」を引き出すことから
機械設計・生産技術で生成AIを活用するなら、出図前のセルフレビュー、設計変更の経緯の確認、装置立ち上げの準備から始めるとよい。図面に残るのは形と寸法までで、その理由は設計変更の記録や不具合報告、ベテランの頭の中にある。ベテランが確かめる観点を言葉にして記録とあわせて登録し、承認と判断は人が行う前提で、1つの部品・1つの工程から試していく。ベテランが在籍しているうちに始めることをおすすめしたい。
chai+の機能と導入の流れは、資料ダウンロードページから確認できる。
機械設計・生産技術の生成AI活用に関するよくある質問
Q. 機械設計で生成AIはどんな場面に使えますか?
A. 出図前のセルフレビュー、設計変更の経緯の確認、装置の立ち上げと条件出しの準備などに使えます。設計基準書や設計審査の記録、不具合報告を登録しておくと、若手の相談に、気をつける点やその形になった理由を根拠の記録とあわせて示せます。
Q. 出図の承認や設計変更の決定を、AIに任せられますか?
A. 任せません。AIが示すのは、登録された観点と資料に照らした確認点までです。出図や設計変更の承認、安全や品質に関わる判断、設備の条件の決定は、設計の責任者など権限を持つ人が行います。
Q. 設計資料を読み込ませるだけでは足りませんか?
A. 資料を参照させるだけでは、ベテランが図面で確かめている観点や、その設計にした理由まで反映されるとは限りません。重視する観点、確かめる内容、例外の条件を言葉にして登録することで、図面のどこを確かめればよいかを示せるようになります。
Q. 設計レビューにAIを使うとき、どんな観点を登録しますか?
A. たとえば、機能・強度、過去の不具合、つくりやすさ、規格・社内基準、コスト・調達の5つです。それぞれ、確かめる内容と根拠にする資料を分けて登録します。観点の数と順番は、ベテランへの聞き取りをもとに会社ごとに決めます。
Q. 生産技術の業務にも使えますか?
A. 使えます。装置の立ち上げの手順書や過去の不具合報告を登録し、作業の前に確かめる点を相談する使い方があります。設備の操作や条件の決定は、担当者と責任者が行います。
Q. 設計部門でのAI活用の効果は、どう測ればよいですか?
A. 設計審査での指摘や差し戻し、設計の経緯を調べるのにかかる時間、ベテランへの問い合わせの件数、回答が示した記録と実際の記録との一致などを、導入の前後で比べます。始める前の1〜2か月分を記録しておくと、効果を説明しやすくなります。
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