「見守るけど、見すぎない」——高齢者の安心とプライバシーを両立するAIとは?

前回までは、NVIDIA GTC2025を3回に渡って紹介しましたが、今回はNVIDIAのブログで、とても興味深い投稿がありましたので紹介します。超高齢化が進む日本において、とても興味深いテクノロジーです。
ご存じの通り日本に留まらず、中国や米国でも「高齢社会」が進む中、家族や介護スタッフによる“見守り”の重要性が増しています。しかし、これまでの監視カメラだと「ずっとカメラで監視されるのは抵抗がある…」という声も少なくありません。そんな中、AIによって生成される“ヒートマップ”で高齢者の安全を守る技術が、いま注目され始めました。
引用:AI-Generated Heat Maps Keep Seniors and their Privacy Safe | NVIDIA Technical Blog
これは、NVIDIAの開発者ブログで紹介された米国企業「butlr」の事例です。
参考:Butlr | Leading AI Platform for Intelligent Buildings
通常の監視カメラとは異なり、人の姿や顔を映さず、動きや熱の分布をAIが解析するという仕組みです。つまり、プライバシーをしっかり守りながらも、転倒や異常行動を検知し、家族や介護者に通知が届くという新しい“見守りAI”です。とても、興味深い技術です。これは、日本の医療・介護現場でも幅広く活用できるポテンシャルを持っていると推察します。
◆日本での具体的な活用シーン例
① 独居高齢者の在宅見守り
一人暮らしをされている高齢者の部屋に設置することで、日中の動きの有無や不自然な転倒などを検知。顔が映ることがないため、プライバシーにも配慮できます。医療スタッフや離れて暮らす家族が通知で異常を知り、すぐに対応できるようになります。
② 高齢者住宅・グループホームでの安全管理
介護施設では複数の入居者を少人数のスタッフが対応している現場も多いですが、ヒートマップによる見守りAIを導入すれば、スタッフの目が届きづらい夜間や個室でも、安全を守る手助けができます。ただでさえ、人手不足の日本では、介護スタッフの働き方改革にも応用できそうです。
③ 夜間のトイレ・徘徊リスクへの対応
例えば、病院などの入院患者の場合、深夜に何度も立ち上がる、部屋を出ようとする、といった行動も、AIが動きのパターンから検知。異常な動きがあった際はナースセンターへアラートが出せるため、事故の予防や早期対応につながります。
④ 障がい者支援施設での安心環境づくり
障がいを持つ方が暮らす施設でも、必要以上に監視されず、安心して生活できる環境づくりが求められています。ヒートマップなら尊厳を守りつつ“必要な時だけ”見守ることができます。また、介護スタッフの患者への暴力なども最近話題に上がる事件ですが、このテクノロジーでは、スタッフの不穏な動きを察知することも可能となるでしょう。
⑤ 地方自治体による地域見守り支援
地方では高齢者の一人暮らしが増えています。自治体がこの技術を活用すれば、訪問が難しい山間部などでも、遠隔での見守り体制を整備することが可能になります。弊社でも、あるお客様の訪問介護の連絡システムに関わっているのですが、特に独居老人などの場合、異常検知する事は難しいです。従って、このようなテクノロジーを導入することで、いざという時に、メディカルチームやご家族へ連絡が届くのは、社会課題の解決に大きく貢献する可能性があります。
◆監視じゃない。尊厳を守るAIテクノロジー
「AIによる見守り」と聞くと、つい監視カメラのようなものを想像してしまいますが、今回ご紹介した技術はまったく新しいアプローチになります。“映さずに見守る”ことで、人の尊厳と安心を同時に守る、これからの時代に求められる優しいテクノロジーです。今後も、社会課題解決となるAI活用事例をわかりやすくお届けしてまいります。